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東京高等裁判所 昭和52年(ネ)1919号 判決

控訴人 有限会社久保井自動車整備工場

被控訴人 株式会社大東社

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担

とする。

事実

控訴人代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠の提出、援用、認否は、次のとおり訂正付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

原判決書四枚目裏七行目の部分を削除し、同五枚目表一一行目の「甲第一号証」から同裏二行目の「不知、」までの部分を「甲第一号証中控訴人作成名義部分の成立は否認する(但し控訴人代表取締役久保井鬼一なるゴム印、その名下の代表者印が、控訴人代表取締役久保井鬼一のゴム印、その代表者印によつてそれぞれ顕出されたものであることは認める。)、その余の成立はすべて不知」と訂正する。

控訴人代理人は、被控訴人は原判決別紙手形目録記載の約束手形をその満期日またはこれに次ぐ二取引日内に支払場所に呈示しなかつたから、控訴人に遡及できないと述べ、被控訴人代理人は、被控訴人が右手形をその満期日またはこれに次ぐ二取引日内に支払場所に呈示しなかつたことは認めると述べた。

理由

甲第一号証の存在と弁論の全趣旨によれば、被控訴人が、金額金二〇〇万円、満期昭和五〇年八月二五日、支払地矢板市片岡、支払場所矢板信用金庫片岡支店、振出日昭和四九年五月三〇日、振出地栃木県塩谷郡氏家町大字氏家二五一七番地、振出人株式会社丸天手塚酒造店受取人久保井自動車、第一裏書人控訴人、第二裏書人株式会社日研社(右各裏書はいずれも白地式裏書)なる約束手形一通の所待人であることが認められる。

被控訴人が右約束手形をその満期日またはこれに次ぐ二取引日内に支払場所に呈示しなかつたことは当事者間に争いがない。

被控訴人は「株式会社丸天手塚酒造店は満期前に銀行取引停止処分を受けており、右約束手形を満期に呈示しても支払いを拒絶されることが明らかであるので、被控訴人は同株式会社に対し昭和五〇年八月一四日送達された宇都宮地方裁判所大田原支部昭和五〇年(手ワ)第二〇号約束手形金請求事件の訴状により、右約束手形の満期である同月二五日に右手形金二〇〇万円を支払うよう予め請求したところ、同株式会社は支払いを拒絶した。右請求は支払いのための呈示と同視すべきである。」と主張する。

被控訴人が、株式会社丸天手塚酒造店はすでに銀行取引停止処分を受けており、右約束手形を満期に呈示しても支払いを拒絶されることが明らかであるとし、昭和五〇年八月一一日同株式会社を被告として宇都宮地方裁判所大田原支部に右約束手形金二〇〇万円を満期に支払うべきことを予め求める訴(同支部(手ワ)第二〇号)を提起し、右訴の訴状副本が同月一四日同株式会社に送達されたことおよび右訴訟が同支部に係属中に右約束手形の満期である昭和五〇年八月二五日が到来したが、同株式会社がその支払いをしなかつたことは記録上明らかである。しかし、裁判上約束手形金の支払いを所持人が振出人に請求する場合に、手形の呈示を伴わないでも、訴状の送達により振出人を遅滞に付する効力を生ずるものであり、また所持人より振出人に対し予め約束手形金を満期に支払うべきことを請求する訴が提起され、右訴訟の係属中に満期が到来した場合、右訴訟係属により満期の到来とともに当然振出人を遅滞に付する効力を生ずるものであり、この振出人を遅滞に付するという効力を生ずるという限りにおいては、訴状の送達ないし訴訟の係属は手形の呈示と同一の効力を有すると解すべきであるとしても、右のような所持人、振出人間だけの関係にとどまらず、満期に約束手形金の支払いがないときに所待人が裏書人に対し遡及権を行使する場合においては、所持人は、原則として支払拒絶証書を作成してこれにより支払拒絶を証明しなければならないのであるから、振出人に対し現実に手形を呈示することを必要とすることは明らかであり、支払拒絶証書作成が免除されているときでも、右免除は支払拒絶証書の作成を免除するのみで呈示をも免除するものではないから、振出人に対し現実に手形を呈示することはこれを欠くことはできないといわねばならない。したがつて、満期に約束手形金の支払いがないときに所持人が裏書人に対し遡及権を行使する場合において、所持人が振出人に対し満期に約束手形金を支払うべきことを請求する訴を予め提起し右訴訟係属中に満期が到来したとしても、右請求をもつて呈示と同一の効力を有するものということはできない。被控訴人が株式会社丸天手塚酒造店を被告として上記約束手形金を満期に支払うべきことを予め請求する訴を提起し、右訴訟の係属中に満期が到来したが同株式会社がその支払いをしなかつたことは前記のとおりであるけれども、被控訴人が控訴人に対し遡及権を行使するについて、右請求を呈示と同視することはできないといわねばならない。よつて被控訴人の右主張は理由がないというべきである。

してみると、被控訴人の本訴請求は、その余の点にふれるまでもなく、理由がないものとして棄却を免れないといわねばならない。

よつて右と結論を異にする原判決は不当であるから民事訴訟法第三八六条によつてこれを取消すべく、訴訟費用の負担につき同法第八九条第九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡松行雄 園田治 木村輝武)

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